株式会社グリーンタワー 代表取締役社長 林 威樹 氏
「おもてなしのスペシャリストから見た
幕張IRに必要なものとは」
2018年で開業27年を迎えた「ホテルグリーンタワー幕張」は、幕張地域の黎明期から今日までの発展を見守ってきたホテルのひとつ。幕張メッセのオフィシャルホテルとして多くのビジネスマンやイベント参加者を受け入れてきた一方、近年では幕張を訪れる外国人観光客も増加してきた。今後のさらなる幕張発展の可能性を秘めた「IR誘致」について、長年「おもてなし」を提供し続けてきた同社代表、林氏にお話を伺った。
幕張の既存ホテルという立場として、IRとの共存共栄を求める
カジノを含むIRが幕張に誘致されるなら、当然IRを訪れる人が利用する展示場やショッピングモール、そして大型ホテルなどの施設も付随して設置されますよね。当社を含めた幕張の既存ホテル6社では、IRの付随ホテルでは収容できない人の受け入れ先として利用される、いわゆる相乗効果を期待しています。IRのホテルと既存ホテルが対立ではなく共存共栄することで、既存のホテルの利益や認知度向上にもつながりますので、ぜひ実現してほしいと考えています。
現在の幕張地区のホテルの状況は不足気味
現在、当社を含めて幕張のどこのホテルも90%前後の推移で稼働率は高くなっています。スポーツ大会やライブが開催されることに加えて、幕張メッセでのイベント参加者の利用率も高いです。さらに近年では、空港の近さから外国人観光客の方の利用も増加しています。
稼働率が100%以上にならなければホテルは足りていると思われがちですが、ホテルは90%近くならほぼ満室状態といえます。月平均で見てみると、幕張新都心内ではホテルが取れない時期もあり、その場合のお客様は近隣の千葉駅周辺、幕張本郷、浦安方面などに流れていきますね。増築を行っているホテルもあるので、今の稼働状況から見るとホテルは必ずしも足りているとは言えません。
ホテルが混むのは土曜日・日曜日というイメージがあるかもしれませんが、幕張新都心のホテル利用は幕張メッセのイベント参加者が多く、ITショーなどのビジネス関係のイベントは平日に開催されます。土曜日・日曜日はライブやコンサート関係のお客様が入るので、異なった客層ではあるものの、幕張新都心のホテルは平日土日問わず高い稼働率になっています。
海外のIRで感じたのは、街ぐるみでの取り組みの重要性
実際に海外のIR事例の視察も行いました。シンガポールではIRのホテルだけではお客様を収容できないので、ほかの地区のホテルも賑わっていました。このことから街の魅力を上げるためにも、ホテルはとても重要な要素であると思いました。さらにラスベガスではホテルの中にもカジノがあり、エンターテイメント性が高いショーの展開など、ラスベガスという街自体で取り組みを行っていることで、魅力的な街づくりにつながっている様子が伝わりました。
幕張IRではホテルの前での噴水ショーなど、魅力的な催しを実現出来たらとても素晴らしいと思います。しかし、海外並みのものを幕張で作るには、カジノ関連施設や業者だけでなく、公園や海、港、浜辺なども含めて幕張という街全体も一体化して取り組まないと実現は難しいです。そのためには、幕張全体での雰囲気づくりが大切だと思いました。
お客様目線で幕張に求めるのは「海の活用」と「夜遊び場所」
幕張はとてもきれいな街ですが、海との関連性があまりないのが改善すべきポイントです。近くに海辺があるのに気軽に行けないため、幕張を訪れたほとんどの人が幕張に海があることを知りません。今は道路で分断されていますが、IRのメガフロート案のように幕張の海は活用すべきです。
もうひとつは、幕張には夜遊ぶ場所がありません。幕張の夜はつまらない街として夜間は千葉駅周辺などに遊びに行く人が多く、不便です。IR誘致となった場合は行政や法律改正も含めて、夜も楽しめる「にぎわいの場」も増やしていく必要があります。
今年開業27年。開業当時の構想の実現を目指して
幕張地域の既存ホテルは当社と同じ年に開業したところが多く、まさに開業当時は幕張地域の開発もスタートしたばかりのころでした。当時は幕張メッセから海浜幕張駅二階部分をつなげ、途中のホテルやレストランなどの施設も全て二階部分のスカイウェイでアクセスできる構想でした。ところが構想のみで止まってしまい、現在はある施設は二階から入り、ある施設は一度一階に降りて入らないと行けないといった不便さが残っています。
開業当時の構想であった全て二階のスカイウェイでアクセスを実現してほしいですね。
近年は外国人観光客の宿泊利用が増加
今までは幕張メッセのモーターショーなどを目当てに外国人の宿泊客が入る事はありましたが、ほとんどは国内からの利用でした。幕張がインバウンドに力を入れた近年から、成田空港を経由した外国人観光客も宿泊客として増加してきました。現在はタイやマレーシア、ベトナムなど東南アジアのお客様も増えて、今後ももっと増えていくのではないかと思っています。
もし幕張IRが実現したら「既存ホテルで大きな枠組みを作りたい」
早ければ2023年に日本第一号のIRが誕生します。幕張IRが実現したら、幕張の既存ホテル6社がひとつの枠組みを作り、IRの大型ホテルやカジノと提携したいと思います。6社すべてIRの公式ホテルとして登録、提携してIR利用客の受け皿となる大きな枠組みとして動いて行ければ良いですね。
おもてなしの観点から見た日本型IRは「和を楽しめるものを」
観光目的でホテルに宿泊される外国人の方は団体が多いので、夜は外で食事をしてホテルに宿泊、翌日次の目的地へ向かうというパターンが多くなっています。当社は「日本に来た」ということを少しでも感じてもらえる取り組みとして、ホテルの朝食に和を感じる工夫をこらしています。例えば、冬なら湯豆腐、夏ならそうめんなどと、季節感のあるものを添えてお出ししています。
IRを利用する外国人の方に対しても、日本の文化を取り入れたエンターテイメントショーができる場所で常時そこにいけば和を楽しめる何かがあれば、「日本型IR」として完成するのではないでしょうか。
IRへの関心を高めて一体化するには、リーダー的な存在が不可欠
ほかの都市と比べて、幕張はIRに対する関心が一般市民も企業も薄いと感じています。当社が加入している既存ホテル6社会や商工会議所、幕張新都心まちづくり協議会、幕張メッセ関連企業懇談会の各団体でも、幕張IR誘致に関する話題はなかなか上がりません。まずはメインストリートなどの目立つところに「IRの誘致をしています」のような横断幕をかかげるなど、市民の認知度を上げ、さらに各団体や企業を巻き込んで、IR実現のための組織づくりが必要ではないかと思います。
幕張新都心まちづくり協議会では街の美化や海浜幕張駅の特急停車提案などアクセス改善のための活動を行っており、海浜幕張の駅前スクランブル化など実現に至ったケースもあります。幕張新都心まちづくり協議会や各団体、各企業、ホテルと所属している属性は違いますが、共通点は「幕張メッセが中心にある」ということです。幕張IR誘致の際にも、イベント会場や駐車場の活用などの観点で、幕張メッセの存在は不可欠となります。さらに、幕張新都心には大企業はもちろん、海外からも注目されている企業がたくさん集まっています。幕張メッセを中心として各団体や企業をまとめあげ、幕張IRに向けて一体化すれば、IR誘致実現も十分可能ではないでしょうか。
幕張は自然と人工が融合したアーバンリゾート
幕張だけが持つ、ほかの地域にある魅力といえば自然なものと人工的なものが融合した、アーバンリゾートであることです。
鎌倉時代、源頼朝が幕を張って休んだことが由来とされている「幕張」は、由緒ある土地です。さらに夕日が沈む富士山の情景が見える海、広くて平らな土地と自然の景観も抜群です。この中に作られた近代的なフォルムの街は、自然と相まって幕張の魅力となっています。東京や成田空港からのアクセス面でも抜群と、まさにアーバンリゾートの条件を兼ね備えた、IRにふさわしい魅力ある都市であると言えます。
プロフィール
林 威樹(はやし たけき)
昭和38年千葉県生まれ。
株式会社グリーンタワーは昭和28年西千葉で「鮨割烹みどり」として創業、平成3年に幕張メッセオフィシャルホテルとして「ホテルグリーンタワー幕張」を開業させた。平成18年に創業者である父の林昇志氏の意思を継ぎ、代表取締役社長に就任、地域に根ざした「心からのおもてなし」を経営理念に掲げたサービスを提供している。
明治大学政経学部卒、大学時代はマンドリン倶楽部に所属。