株式会社 髙橋企画 ハッスルマッスル代表 髙橋 博光氏
「デジタル化の現代にアナログの力を」
子どもたちへ未来のコンテンツを残すことが責任
元マッスルミュージカルの総合リーダーで、日本人初となるラスベガスでのロングラン公演を成功に導いた実績のある髙橋 博光氏。現在は、ハッスル・マッスルの代表を務める髙橋氏が語るエンターテイメントへの思い。人間が創り上げるエンターテイメントこそ、未来の子どもたちに残すことが重要と考える髙橋氏にお話を伺った。
ラスベガスから学ぶ「将来の子どもたちへ夢を」
日本人は、「MICE・IR」において、カジノのイメージが大きいと感じます。IRは「総合リゾート」であり、泊まって、遊べて、カジノができる施設です。また、日本の文化を学べる場所でもあります。世界中の人に日本の良さをPRするチャンスの場ととらえるのが良いでしょう。
ラスベガスもマカオも巨額といえるお金が大きく動いています。カジノからうまれる経済効果は非常に大きく、必要不可欠なものです。運営資金で地域や日本経済を潤して、将来を担う子どもたちへ夢が与えられたらいいですね。カジノは依存症を招くような「お金を稼ぐ場所」ではなく、社交場のような『遊べる場所』といったイメージを浸透させていくことも大切だと思います。
雇用の面でも、ラスベガスにはメキシコ人など他国の方たちがたくさんいますが、日本も今後、人口減少などにより労働力が落ち、海外に頼らなくてはいけない面も出てくるでしょう。今だからこそ、IRのような大きなコンテンツを設けることは必要だと思っています。
デジタル化だから身体を使ったエンターテインメントを提供
世界中のデジタル化が進んでいく一方で、人間の本能が低下しているのではないのかと思うこともあります。現代人は、パソコンやスマートフォンの利用が年々増えて利便性がある反面、漢字も電話番号も覚えることをしなくなっています。
「これは阻止しよう!」と2013年頃から始めたのが、習志野市でPTAの皆さんや各校の校長先生たちなどを巻き込んで協力してもらいながら行っている「子ども元気計画」です。
公演時間前の舞台を有効に使い、日本中の子どもたちの体力低下へ少しでも歯止めのきっかけが与えられたらと、身体一つで何が表現できるかというテーマで、子どもの体操教室や、健康づくりに特化したシニア向けの体操教室などのスクールを実施しています。
子どもたちが日常で学んでいるダンスや格闘技なども発表する場がないということで、照明や音響などの設備は整っている舞台をボランティアとして提供し、発表を行える場所にしています。
公演終了後にも、観客の方が参加できる大縄跳びチャレンジ大会などを行って、体力づくりや協調性づくりの時間も設けています。
演目中には観客の方に参加してもらう場面をたくさん取り込んだ「参加型」の内容になっており、多くの人がいる見ている中で披露することで、一般的なスクールやスポーツやフィットネス産業とは違う、エンターテイメントを提供することができます。
そのスクールの延長線にはただ学ぶだけではなく、「ハッスル・マッスルに出演する子が育つかもしれない」といった夢や希望もあります。出口をしっかり作り、スクール事業を展開していきたいと思っています。
「0歳から150歳まで楽しめる」がコンセプト
現在、「ハッスル・マッスル」は忍者をテーマに公演をしています。忍者はものすごい、精神力・体力・肉体能力をもって日本を陰で支えてきた人たちです。
海外でも比較的浸透している日本語として、「忍者、歌舞伎、相撲、芸者」などといった言葉があります。私どもはそれらをひとまとめにして、忍者の世界の舞台の演目に組み込ませて公演しています。
何ができるか、何を織り込んだらお客様を魅了できるかという視点で勝負しています。
公演は、全国各地をまわり、沖縄には毎年行っています。
離島などの地方へ積極的に出向き、子どもたちへ少しでも非日常の空間を味わってもらい、『人間って楽しい!』という将来への希望を感じてもらいたいと願っています。
まさに、幕張のIR誘致と共通するところがあり、地方の一人ひとりの思いを形にしてこそ、とても強い力になると考えています。
おそらく、人間は100%あるうちの数パーセントしか実力を使っていないでしょう。もちろん肉体の面もありますが、根本的には精神的な弱さだと思っています。
精神的に強くなれば肉体も鍛えることができるのです。
「ハッスル・マッスル」はファミリーエンターテイメントなので、ご家族でお越しいただくことが多いです。来演時は幼稚園ぐらいのお子さんがおじいちゃんの手を引っ張ってきたのに、観終わった後には、逆におじいちゃんがその子の手を引っ張っていたことがあります。そんな場面を見て、皆さんに元気を与えられたと感動したこともありました。
国内で学ぶ「国際的な子どもたち」に
日本は外国の方たちと接する機会が非常に少ないのですが、海外では常に様々な人種の方たちが交流しています。
日本の子どもたちも、外国の方に接する機会をもっと増やして、慣れていくことが大事です。外国の方に直面した時、言葉がしゃべれず、ちゃんと話せないと恥ずかしいと思ってしまったり、どう接すればいいのかと動揺して嫌になってしまう子どももいます。人間同士ですから身振り手振りでも伝わることを実感することや、ちょっとしたワードを交わすだけでも伝わるかもしれないという状況は、どう行動するのかと考える第一歩にもなります。
幕張にIRが誘致されたら、色々な人たちが海外から訪れるので、実際に道を聞かれることがあるかもしれません。そういった時でも、伝え方を学び、接して、話す機会につながって、慣れてくれたらいいと思うし、そういう機会が必要ではないでしょうか。
海外の人は、人に合わせない自分の世界観がありますので、良い部分や文化、考え方にたくさん接することのできる機会をつくってあげたいですね。
子どもたちは、海外の方たちの態度やリアクションを見るだけでも良い勉強になると思います。海外へ行かなくても、幕張に来れば学べる場所があるというのはとても素敵なことです。
エンターテイメントの使命は心の器を大きくすること
エンターテイメントの良さは、心を豊かにすることだと思っています。
歌舞伎など大衆芸術が発展した日本は、もともとエンターテイメントの国ですが、今は観ない人も多いのではないでしょうか。
観なくなるということは心の豊かさに欠けることに繋がっていると考えます。虐待やいじめも心に余裕がなく発展してしまったのではないかと感じています。
心の器を少しでも大きくしてあげられるようにすることが、エンターテイメントの使命だと思っています。
子どもたちへ『未来の希望があるコンテンツ』を残すべき
IRは経済的な面はもちろん、雇用の面でも活性化されるでしょう。世界各国から様々な人たちが集まり、色々な人や文化に接することが出来ます。
今、0歳の子どもが大人になったときに、大きな日本の負担を背負って生きていかなければなりません。今の大人たちが、未来に何を残してあげられるかということを考えるべきです。子どもたちの為にも、未来に向けた、未来の希望が残るコンテンツをつくっていくことが責任であり、それがIRだと思います。
今、これだけ人口が減ってきていますが、AIは、1台で4,000人分の仕事をするといわれています。大企業は、AIを1台投入すれば4,000人ほどを人員削減できてしまいます。
AIではできない仕事をつくる場所こそ、まさにIRだと思います。
自分たちが行っているショーも同様に、人が動かないと成り立たないコンテンツを残してあげることが大切ではないでしょうか。
文武両道を伝える場所、日本ならではのIR
忍者のエンターテイメントや、舞台の合間で子どもたちやシニア層に向けた健康教室、武道として書道などの文武両道を伝えるなど、ショーを行うこと以外でも一つの舞台で様々なことが出来ます。そういった健康的なもの・精神的なもの・楽しいものを提供できる場所にIRは相応しいと思っています。
しっかりとした軸に協力をすることが成功への道
日本の難しいところは、期日を目指してプロデュースしていくことが不得意であり、率先して引っ張って行ける人や団体がないとスピード感に欠けてしまいます。
規模的にはオリンピックが開催するようなイメージなのに、2年という月日はあっという間に過ぎてしまいます。
一つのショーを売るということがとても大変で、草の根作戦で活動していますが、IRも同じく、とても大変な時期だと思います。
そこに育てるまでには、大きな体力と精神力と、軸になる人の折れない魂がないと進んでいけません。一つの考えに、いかに賛同して協力できるかで成功するかしないかがかかっていると思います。
協力者が増えたとき、最後にはどこにも負けない大きな力となり、成功へと導くでしょう。
プロフィール
髙橋 博光(たかはし ひろみつ)
岩手県出身。整形外科的症例と対処法を学び、2003年にマッサージ師国家ライセンス取得。フリーで顧客を中心に治療活動を行う。
2001年よりマッスルミュージカル立ち上げからパフォーマとして参加し、総合リーダーを務める。TBS系テレビ番組 筋肉番付、サスケなど多くのメディアに出演した実績がある。
2010年マッスルミュージカル卒業後、Physical Therapy「空[KU:]」を開業。
2013年に「筋肉サーカス」ハッスル・マッスルを立ち上げ、子ども元気計画ツアーを全国で展開。文化に接することの少ない地方や離島に積極的に訪問し、子どもたちに明日を生き抜く力を与え続けている。