千葉市議会議員 小川 智之 氏
千葉型のIR誘致のために必要なのは「勉強」
千葉市を「住みたい街」に変えるブランディングとは
日本都市のそれぞれには多彩なイメージがあり、「住みよい街」でも「住みたい街」にはなかなか変わらないことがある。
千葉県市議会議員であり、IR議連のメンバーでもある小川智之氏は「生まれ育った千葉市を住みたい街に変えたい」という信念から、IR誘致に千葉市のブランディングの可能性をかけている。
自身もかつては、IRに対してマイナスイメージを持っていた小川氏が、IR誘致へ動き出したきっかけになったものは何か、お話を伺った。
正しい知識を得れば、IRはネガティブなものではない
IR議連は立ち上げのときから参加しています。
私がIR誘致賛成派になったのは、もともとJC(青年会議所)設立50周年記念のときに、「千葉市の活性化のためにIRを誘致すべき」と提言したことです。
提言はしたものの、当時の私はIRに対してあまり良いイメージを持っていませんでした。
IRといえばカジノ、まさに現在IR反対派の人が持っているような、ギャンブルに対するネガティブなイメージが先行していたのです。
提言活動で協力した以上、自分自身がIRについてもっと正しい知識を得るべきと考えました。IRについて関連本をたくさん読み、IR関連の勉強会に参加するなど、改めてIRについて勉強してみたところ、実際のIRと、私が持っていたネガティブなカジノのイメージとは全く違うことが分かりました。
「ちばの未来」が設立された8年前には、私自身もIR誘致に気持ちが傾いていたと思います。
幕張には幕張メッセがありますが、会議や展示会の後の懇親会や接待、いわゆるアフターコンベンション面では、飲食施設などが充実していない幕張は弱いです。
都内はアフターコンベンションにも強みがありますので、以前モーターショーがお台場に移動してしまったことも、都内が持つアフターコンベンションの強みが原因の一つだと考えられます。
幕張がこの先コンベンションビューロとして残るためには、アフターコンベンションの強化が必須となります。そのひとつの方法がIRと言えるでしょう。
幕張から世界に発信させる「レッドブル・エアレース」
千葉市の市議会員という立場から、幕張というよりは千葉市全体の活性化のために、立地条件のよい幕張を活かすべきと考えています。
幕張の良さを活用して、アジア初のエアレース「レッドブル・エアレース」を幕張に誘致したのもその一環です。
レッドブル・エアレースのきっかけになったのは、2014年のビックビーチフェスティバルです。当時、エアレース実行委員会が幕張メッセのアトラクションとしてすでに飛行機を飛ばしていました。
エアレースの歴史としては、2003~2004年にエアレースが始まりました。ところが、世界各国から選手が参加するようになると競争が激しくなり、もっと早さやテクニックを得るためのマシン改造が増えます。その結果エアレースが危険になり、一度レギュレーションの見直しが決定され、2009年頃エアレースは休止になっています。
このエアレース休止期間中に、「再開したらアジア初として幕張でエアレースをやりたい」と検討を始め、エアレースについて、まずどんなものかを勉強しました。
次第に、私自身も「エアレースはおもしろい」と感じたため、幕張にエアレースを誘致するために動き始めました。
レッドブル・エアレースの会場は地域のアイコニックなランドマークともいえる場所ではないと開催しないという決まりがあります。ニュース性や発信力の影響が大きい場所での開催を目的としています。
例えば、ブダペストで開催するときには世界遺産の橋の下が会場になります。
それは、レッドブル・エアレースがブランディングを大切にしているということに繋がります。
日本で開催するなら、日本一の長さを誇る人工海浜、そのすぐそばに近代的な都市がある幕張が持っているロケーションを売り出したい、世界に発信したいと思いました。
エアレースは陸から海ではなく、海から陸を映像として映すため、幕張の良さも同時にアピールできます。
幕張の魅力、そして民間空港発祥の地でもあることなどを絡めながらエアレースのプレゼンを行い、千葉幕張にレッドブル・エアレースの誘致を実現させました。
イベントは一過性だけでなく、その地域のイメージを作るために活かすのが大切だと私は考えます。エアレースと同じく、IRも誘致することで千葉の良いイメージや価値観が得られるでしょう。
IRは千葉市を「住みたい街」にブランディングできる存在
私の政治信条は「『住みよいまち』から『住みたい街』へ」です。
千葉市はすでにとても住みやすい街ですが、なかなか「千葉に住みたい」という人はいないのではないでしょうか。
例えば、「横浜と千葉どちらに住みたいか」と聞かれたら、ほとんどの人は「横浜」と答えるのではないでしょうか。
千葉も、横浜に負けないくらい住みよい街です。
横浜には「おしゃれ」「港町」「流行の発信地」など、都市としての強いブランドイメージがあり、千葉にはそれがありません。
千葉という都市のイメージをどのように上げていくか、千葉という街をどのようにブランディングしていくかが私の信条です。その手段として、IRは切り札になると考えています。
IRが実際に幕張に誘致されたら、世界の内外から多くのお客様が来るようになります。
つまり、観光地として千葉を選んでもらえるようになるのです。
現在、インバウンドの外国人にとって千葉といえば、あくまで成田に近いという立地から、空港近くの宿泊のみの用途で立ち寄ることがほとんどです。
これが、もしIRを誘致したら幕張をベースにした3泊4日の観光プランも可能になります。
IRでショーやカジノ、買い物などを満喫して遊んだり、幕張から近場に足を延ばすことも可能で観光の起点にもなれます。
幕張をベースに日本の観光が行えれば、幕張を含めて今までの千葉のイメージは大きく変わってくるでしょう。
そのためには「中途半端」に進めてはいけません。カジノのみだけでなく、大きな施設で非日常をいかに味わえる空間を作れるかが重要になります。
IRはカジノを含めた統合リゾート、カジノはIRのエンジン部分
現在、行政にIR誘致への働きかけを行っていますが、市長はあくまで「民間から盛り上がらないとうまくいかない」という考えです。
意欲のある事業者の方や、民間の動きのサポートをするのが私たちの仕事ではないかと考えています。
どうしてもIRといえばカジノが先行してしまいますが、IRは「カジノを含めた統合リゾート」というのが正しい姿であり、ショーなどを含めた子供も大人も楽しめるエンターテイメントです。
カジノはあくまでIRのエンジン部分で、カジノで上がった収益を、利益率の低いところに回して全体を活性化させます。
例えば、競輪も公営ギャンブルである競輪で収益を上げて、スポーツとしての競輪を活性化させていますよね。IRのしくみもこれと同じです。
その理解を広めるために、IR活動をし続けたいと思っています。
幕張にIRを誘致するには今度どのように動くべきか
IR議連として、まず市に要望書を提出することが課題であり、ここ2~3年が勝負です。私たちは何ができるかをまず議論しなければなりません。
IRに対しての動きは、大阪は行政がトップダウンで先導しているのでスピード感がある一方、千葉は民間がボトムアップ型で推進しているためやや遅く感じられますが、この民間ベースの動きこそが千葉型ともいえるのではないでしょうか。
IR誘致に対して少しずつ発生してきた小さいクラスターをどうやって繋げるか、そして千葉市だけではないIRの波及効果が千葉県全体に広まるということをどう伝えるかが重要です。
また、現時点でIR用地として使えるのは、幕張メッセの駐車場ですが、これは千葉県の持ち物です。IR誘致には県の協力が得られるかどうかも最大のポイントとなるでしょう。
ギャンブル依存症が認知されるようになったからこそ、ケアが必要
IR誘致を反対する人の中には、「ギャンブル依存症」への不安を持っている人も多くいます。
ギャンブル依存症は以前から症状としてはありましたが、公に「ギャンブル依存症」という病名として認知されるようになったのはここ最近です。
ただし、ギャンブル依存症になるのはIRに限ったものではないことに注意しなければなりません。IRが存在しない日本国内で多くのギャンブル依存症の患者さんがいることです。
IRの事業による利益は、ギャンブル依存症への対策やケアにも使用できます。つまり、IRそのものがギャンブル依存症対策の費用を捻出するエンジンにもなるのです。
ギャンブル依存症へのケアや対策をするのはもちろん、法令にも文言として盛り込むなど行政としての対策も求められるでしょう。
下からのボトムアップこそが、千葉型のIR誘致
IRを反対している人に対しては、IRに対する正しい知識を得て欲しいと考えています。
「IR=カジノ」というマイナスイメージだけで判断するのではなく、IRを学び、シンガポールやマカオ、ラスベガスなど、IRの成功事例を見たうえで「日本でやるのは不適切」という反対意見が欲しいと思っています。
IR議連のメンバーとして、今後、皆さんのIRへの理解を得られるための学べる機会を創出していきたいです。
千葉市のIR誘致は行政が後手になっているので、上から下へのトップダウンではなく、民間から行政へのボトムアップ型です。
民間の力が重心になる、千葉型のIR誘致をぜひ皆でやっていきましょう。
プロフィール
小川 智之(おがわ としゆき)
千葉市議会IR推進議員連盟相談役。
千葉市サッカー協会会長、千葉市一輪車協会会長、千葉市空手道連盟副会長などスポーツ分野を中心にしながら、JC、商工会議所青年部、法人会青年部会、倫理法人会で役員を歴任するなど経済界においても多彩な活動を行っている。
自身も日本拳法三段・柔道三段・剣道初段と武道をたしなむ一面も。