にぎわいクリエイト株式会社 代表取締役 木谷 和夫 氏
「お祭の主役は、来街者だけでなく、
幕張の住民でもある…
街おこしから見た幕張IRへの道」
お祭に花火大会、日本人の原風景の中には地域で開かれる行事がある。幕張に足りないのは、まさに住民が心から楽しめる地域に根差したイベントであり、IRが目指す先は日本の祭りや花火大会のような地域密着型のイベントなのではないか。「海浜幕張祭り」を始め、日本人の原風景であるお祭のような地域密着型の街おこしイベントを多く手掛ける、「にぎわいクリエイト株式会社」代表取締役 木谷和夫氏からお話を伺った。
地域集客イベント経験者の観点から、
幕張の「寂しさ」を「楽しさと賑わい」に変えたい
私はかつて、前職のセイコーインスツル(株)(略称:SII)の本社が総武線亀戸駅前から幕張新都心に移転した本社跡地を開発し、年間来場者数1,000万人超えをした商業施設「サンストリート亀戸」で住民やお子さんが笑顔になれるための集客イベントを年間 600件近く手掛けた経験があります。お金をかけずに集客にもつながるイベントとして、デビュー前のアーティストのオーディションを企画し、審査委員長には、作詞家・松本一起氏(矢沢永吉「夢の彼方」、鈴木雅之「ガラス越しに消えた夏」、Class「夏の日の1993」、中森明菜「ジプシー・クイーン」、2017年には、第58回日本レコード大賞企画賞を新童謡『あからんくん』で受賞、数々のヒット曲を手掛ける)に担当いただき、合格したアーティストには施設内にある中央ステージでのライブ出演をして貰いました。既に売れているプロアーティストは、ギャラばかりでなく、警備費などの多額なお金がかかります。ところが、デビュー前の実力を持ったアーティストは、最初はファンも少なく、応援のし甲斐があり、アーティスト側も、ストリートライブではないのでクレームの心配もなく、気兼ねなくファン獲得に頑張ることが出来ます。こちらがギャラを払えない分、心の通った親身のサポートで、アーティストが売れると共に喜び合える関係ができるのです。結果、サンストリート亀戸のライブ開催から「PaniCrew(パニクルー)」や「Perfume」他、アイドルの登竜門として多くのアーティストをブレイクさせるきっかけを作ることが出来ました。
幕張新都心は、日々16万人が活動する街です。ところが、幕張に移転したSII本社ビルの23階から昼間の幕張の街を一望したところ、ビルの間は全然人が歩いていないのに気が付きました。「ゴーストタウンのようで、なんて寂しい街だろう」と思いましたね。幕張メッセやZOZOマリーン球場、ショッピングモール、アウトレットと集客施設も多く、街を回遊して楽しめる活性化要素がたくさんあるにもかかわらず、朝は、駅やバス停から企業(オフィスビル)に向かって人の背中を見て歩く人の行列と、夕方は、逆に企業から駅やバス停に向かう、人が行き交うことのない、一方通行の街だったのです。
実は幕張は意外と夜が早いです。以前はもっと電車のアクセスも悪く、本数も少なく、海浜幕張周辺では中途半端で切り上げざるを得ませんでした。近くに日本一長い人工浜(海岸)がありながら、街灯もなく、怖くて近寄ることもできません。遅くまで飲みたければ千葉駅や船橋駅などの近隣エリアに流れてしまいます。せっかくホテルも多い幕張は大人のオシャレな社交場を作るのにぴったりの場所なのに、それを活かせていないのです。
私はサンストリート亀戸のライブ活動を始め、地域活性化のイベントを手掛けた経験を活かして、幕張にも来街者だけでなく地元の方も一緒に楽しめる何かを作りたい、と感じました。
幕張にはZOZOマリーン球場もあるし、幕張メッセもあります。たくさんのイベントやライブが行われていますが、楽しんでいるのは来場者で、大勢の来場者を伴うイベントは、住民の中には歓迎していない人もいるのです。これが、幕張に活気がない原因であると分かりました。例えば、幕張メッセで大きなイベントが開かれると、車で来場する来街者も増えます。つまり、大きなイベント開催は幕張の住民にとっては渋滞、騒音、排気ガスとゴミで街が汚されるなどの要因になってしまうことがあるのです。これは住民にとってはあまり嬉しいものではないですよね。
これを踏まえて、私は幕張メッセだけではなく、連動した住民のためのイベントも街の中でやろうと考えました。最初に連携したイベントが、幕張メッセモール2階を利用した夏のイルミネーション「光の祭典」との連動企画です。幕張メッセさんが主催し、千葉県内にある東京ドイツ村の、冬のイルミネーションで使っている100万個の電飾を、夏の間だけお借りしました。8月のサマーソニックの初日までの19日間「光の祭典」の開催期間中、同時にイルミネーションが点灯する夕方の間、サンストリート亀戸でブレイクした方々がノーギャラにもかかわらず駆けつけ(用意したCDは全て完売)、地元・神田外語大学の歌と踊りのサークルと地元のアーティストによるライブイベントを開催し、当初の想定来場者10万人を大幅に超える25万人を数え、より地元密着型の集客イベントとして楽しめるようにしました。
さらに2012年には念願だった幕張の浜での千葉市民花火大会イベントに連動した「海浜幕張祭り」の開催ができました。もっと幕張の街を住民も来街者も一緒に楽しめるものを創っていきたい、と思っていたところで、「IRを千葉に誘致する可能性がある」という話を耳にしました。
ラスベガス、モナコ、マカオ、シンガポールなど世界各国、インバウンド(外国人観光客)、観光収入が高いところは、IR(カジノを核とした統合型リゾート開発)があります。IRを幕張に誘致出来れば、来街者だけでなく、大人のオシャレな社交場として地元幕張に住む人も楽しめるようになり、近隣他地域への来街者の流出も防げます。雇用も地元経済効果も格段に上がることは間違ありません。地域のIRこそが、幕張の住民の方も来街者も一緒に楽しめる、まさに地域活性化のコンテンツになると思ったのです。
自分の使命は「地元の人たちの誤解を解くこと」
千葉市の熊谷市長のIR誘致に関する考えを伺う機会があったのですが、「IR誘致に千葉市が手を上げるのであれば、地元の住民の賛同が絶対条件」とおっしゃっていました。IRはカジノ=ギャンブル=犯罪+依存症、と悪いイメージが先行しがちですが、その誤解を解くのがとても大事だと思います。IR誘致に向かうには住民の賛成が重要ですので、カジノに対して間違った理解を持ったままで、街の活性化のチャンスを失うのは非常に勿体ないと感じています。なので、地域に密着したイベントを手掛けてきた私だからこそ、もし幕張の住民の中に「IRはカジノ、カジノは悪」という誤解があるとすれば、その偏見を解くために、何かできるのではないかと思ったのです。
幕張は元々コンベンションセンターである幕張メッセ、イオン幕張新都心のショッピングモール、ディズニーリゾートも隣接しており、集客施設もそろっています。さらに、成田からも都内からもアクセス抜群で、外国人観光客も成田空港や都内、千葉県近隣の観光地へ行く途中に気軽に立ち寄れる立地でもあります。日本への外国人観光客数は去年2,800万人を記録し、今年は、政府が2020年目標としている3,000万人を超える勢いとなっています。インバウンド集客が増えている今だからこそ、IRで多くの集客を望めるチャンスも年々増加しています。
世界各国のIR事例を見ると、カジノ収益で地域の税負担を賄える例があり、学校などの教育費が無料になる、住民の生活グレードも上がるなどの効果が期待できます。さらに、カジノが来ると犯罪が増えるというのも誤解です。カジノができると犯罪防止のために警備を手厚くするため、より治安面が向上するメリットもあり、今以上に犯罪の少ない街にもできるのです。現在千葉市の公立学校の冷房普及率は1%以下ですが、カジノの収益によってすべての千葉県の学校に冷暖房をつけることができるかもしれません。IR誘致で千葉市が手を上げた後に住民の賛成が得られないと誘致は叶いません。IR誘致に手を上げる前に、IRのカジノは悪である、という認識を解くためのイベントを企画しようと考えました。
カジノは社交場、イベントで楽しさを伝える
私ができることといえば、地域住民が楽しめるイベントを企画して開催することでした。よって、カジノへの誤解を解くため2014年の2月と11月にカジノゲームイベントを行いました。カジノが悪であるという誤解を解くため、さらに幕張にオシャレな大人の社交場を作れるきっかけになれたら、という思いから開催に踏み切りました。
ゲームイベントは2014年2月14日の「バレンタインデー」と11月22日の「いい夫婦の日」に、夫婦で参加するイベント「ゲームパーティナイト」を開催しました。カジノをゲームとして楽しんでもらうために、ルーレット盤からカードゲーム、闘茶(中国のゲーム)にバカラと、設備とチップは全て本物を用意しました。参加費者には参加費分のチップをお渡しし、カジノゲームをご夫婦で気軽に楽しんでもらうイベントです。ホテルグリーンタワー幕張で開催したゲームイベントは、ドレスコードも設けましたので、パーティスタイルに着飾って参加されるご夫婦が多く、まさに大人の社交場の雰囲気を醸し出せました。チップを使ってゲームをし、得点の高い順にスペイン・ビアドロ社製の高級人形などの豪華な景品をプレゼントする企画にしました。大人の社交場をホテルグリーンタワー幕張に作り、運が良ければ豪華なプレゼントが貰えます。このように、カジノの楽しさを住民の方にも体験してもらえる取り組みを続けていけば、住民にとって有益なコンテンツにもなるIRにも、住民理解を得られるのではないかと考えました。日本全国で10カ所の候補地がそろい、IRへの手を上げる際に、住民が賛成している状態に持っていくのが、自分の使命でもあると感じています。
日本人は照れ屋が多く、思ったように楽しいことを表現できない人が多いです。日本人も、外国人観光客も、みんなが楽しめる、笑顔になれる場所がIRです。カジノというと誤解が生まれてしまいますが、IRは「カジノを核としたリゾート」であり、カジノの収益をリゾート開発に回せ、街の発展にもつながるのです。
イベント、企画、街づくりを手掛けた目から見た「幕張型IR」とは
整然とした街は楽しくない、というと語弊がありますが、その街の歴史が街を作っていきます。幕張は25~30年前に埋め立てられた新しい街のためまだ歴史がありません。歴史が新しい都市ながら幕張に住んでいる人、仕事や通学している人など、幕張を愛している人はたくさんいます。皆が幕張を愛しているように、この街に住みたい、行きたいと感じる、楽しめる街づくりをしていきたいと思っています。そのためには、住民も一緒に楽しめる、住民も応援する「街づくりのためのイベント」を開催すべきだと思っています。幕張メッセで開催していた大型イベントが東京ビックサイトに移転してしまったように、街が応援しないイベントはやってはいけません。ここに来て幕張のIRの候補地としての地盤が上がっていますが、街の人たちの誤解を解いて、応援してくれる、幕張型のIRを作るべきだと思います。
幕張がほかの都市にない強みとは、ある程度のIRの基礎を既に持っていることです。IRそのもののコンテンツである、コンベンションセンターである幕張メッセ、ショッピングセンターや映画館などの施設が集まるイオン幕張新都心、プロ野球球場もあります。IRを構成する要素は既にある中で、それでも足りなければ幕張の新駅ができる予定地の周辺に、IRの足りないコンテンツをつくることもできます。そして幕張の浜を活かした環境破壊のないメガフロートを作れば、今足りないホテルなどの施設も充足できます。他の候補地の多くは何もないところに一から作るので莫大な資金がかかりますが、今の環境を守りつつ、一大リゾートができるのは幕張だけの潜在力だと思っています。たっぷり予算をかけなくてもIR実現の可能性が高いため、投資回収が早いのも幕張のメリットといえます。
そして、幕張は都心と成田のちょうど中間地点にあるので、途中でIRに参加しやすい立地条件も持っています。また、千葉県各所から気軽に訪れられるようにするには、吉田社長(ビィー・トランセホールディングス株式会社)のおっしゃるLRTを構築する必要があり、もしもLRTを整えることが出来れば、都市としてとんでもない変化を遂げられると思います。
アメリカ西海岸に匹敵する幕張の砂浜が最大の「もったいない」
アメリカのサンタモニカを始めとして、マンハッタンビーチなど、カリフォルニア西海岸にも多く訪れた経験があります。西海岸のビーチは日本人観光客にも人気ですが、ビーチバレーをいつでも楽しんだり、豪快に蒸した毛ガニをウッドデッキに座り込み食べたりと、人が自然とたくさん集る幅広い楽しみ方ができる魅力的なビーチです。幕張なら西海岸のビーチと同じ環境を造れると考えています。
現在、大きなイベントは幕張メッセや球場で行い、ショッピング施設もイオンに集中していますが、幕張の広大な人工ビーチにおしゃれなショップなどを作る投資も必要だと思います。そうすれば、幕張もサンタモニカなどの西海岸のような街づくりも可能になります。ビーチに人が集まればお店が集まり、自然と経済が集まります。この素晴らしい集客力を持つ砂浜を、幕張は活かせていません。幕張の財産であるこの砂浜を活用できるものがあれば、IRの中でも海辺ライブ開催などで、観光スポットとして生まれ変われます。
幕張に住む人々が応援して、幕張を訪れるお客様と一緒に楽しめる街にすることが理想です。もう幕張で行うイベントは外からのお客様だけが楽しんで住民が困る、というのはそろそろ卒業しなければいけません。サマーソニックはそれを目指しています。世界からのアーティストが幕張に集まってくるというのはすばらしいことですが、騒音などで住民が困ると思われてはいけませんし、一度イベントが地域から離れてしまうと、二度と同じ場所で開催するのは難しくなります。地域活性化のイベントを通じた私の経験を活かし、プロモーターの開催だけでなく、主催者と地元住民が共に連携し、街の人が楽しめるイベントに仕立て上げるよう、これからもIR支援をしていきたいと思います。
プロフィール
木谷 和夫(きたに かずお)
東京都江東区亀戸出身。SIIに入社し、本社が幕張に移転した亀戸本社跡地の再開発プロジェクト開発担当~「サンストリート亀戸」の管理運営会社「(株)タイムクリエイト」営業担当取締役に就任。元々下町育ちのお祭り好きの気質を持ち、自分の使命とは「集客」であると気づく。年間600件のイベントを企画、開催する。その後幕張の浜辺での花火イベント「海浜幕張祭り」やサマーソニック前夜祭の開催を手掛け、2013年5月に集客イベント会社「にぎわいクリエイト株式会社」を設立、2015年7月、神田外語大学ボランティアセンター顧問に就任。来街者も住民も笑顔になれる、地域密着型の街おこしイベントを今日まで多く手掛けている。